感情はびっくりするほど当たり前のようにこんこんと湧き出てくる。食事中にスマホをいじられたら誰だろうとすごくいやだし、ちょっと背伸びしたファッションを褒めてもらえたらそれだけで1日がハッピーになる。 感情や感覚は当たり前に湧くものとして、問題…
花の写真を撮るのが好きだ。熱中するうちに花と自分の境目を忘れて、わたしそれ自身が花や春になるのが好きだ。けれどときどき、自分の「見ている」に自信がまったく持てなくなる。 何かを見ている。目でかたちを見ている。風を耳で感じている。香りを鼻で感…
深夜は猛毒だ。栄養にならない字ばかり読んでしまう。10日前に立ち寄った店の食べログ、新聞に挟まっていた受験塾の広告、架空請求メールの文面。人生にとってどうでもよすぎる文字をひたすら目で追い続けながら、頭のなかではぼんやりと「アーー」という自…
おばあちゃんは、自分が眠ることを許せない人だった。だから、娘であるわたしの母が眠ることも許せない人だった。 おばあちゃんは今年79歳になる。おじいちゃんが77歳で亡くなったのは4年前。生まれ変わってもまた一緒になりたい、とまで言った祖父が死んだ…
去年から映画を観に行くようになったので、せっかくならばレビューを書き残しておきたいと思い今年から始めます。気分によるボリュームの差はご愛嬌です。 −−− 「こころに剣士を」 http://kokoronikenshi.jp/ 1月2日 ヒューマントラストシネマ有楽町 映画初…
― だまし絵のような部屋に住んでいた。 わたしの部屋は、2階建ての実家の1階。北側で日は当たらないけれど、東と西に大きな窓があって、風がよく通る。広さは10畳。実家で10畳の部屋をもらっていると言うとたいてい羨ましがられるが、1階の北側なので、冬の…
先に申し上げておくが、わたしはこれからもこの先も、支持不支持を含め特定の政治家や党に対する私的な見解をインターネット上で表すことは決してないし、個々の思想やポリシーについて言及することも決してない。もちろんネット上の論争に関わる気も全くな…
予備校で小論文の講師を2年ほど続けているなかで、必ず生徒に投げかける質問がある。 「”風が吹けば桶屋が儲かる”っていうことわざ、あれさ、どうして風が吹くと桶屋が儲かるか、知ってる?」 ほとんどの受験生はこのことわざを知っているし、これを読んでく…
その昔、母がわたしに国立の小学校を受験させようとしていたことがあった。 もう17年も前のことだけれど、受験のことも含め、今でもその当時のことを鮮やかに覚えている。お隣の社宅棟に住んでいたナオくんと近所のくもん教室に毎週通っていた。くもん教室…
顔や腕のあいだをすり抜けていく夜風があまりに気持ちよくて、予定していたところの3倍遠いコンビニまで自転車を走らせた。150円しか持っていないけど。レモンフレーバーの炭酸水を飲みたかっただけだけど。 夜は、それだけでなんとなく特別だ。車も走ってい…
「院に進学?それとも就職するの?」 今年度、何度もいろいろな人たちからこう尋ねられた。そりゃあそうかもしれない。わざわざ大学4年生を1回休学して、日々何かをしているようだが、何をしているのかはよくわからない。進路の話をするとなれば、その具体…
待つことが、けっこう苦手です。 だから、白いご飯は大好きだけれど、極限まで腹ペコのときの炊きたてご飯は苦手。熱くて食べられなくて、我慢できない気持ちが爆発してしまうから。 行列のできるナントカ屋さんも、あんまり得意じゃありません。「よし、今…
「チョコレートは頭の回転をさまたげるから食べないほうがよい」 みたいなことを、何かの論文だか記事だかで読んだ。海外のものだった気がする。そういえば昔、わたしはナントカチャイルドアカデミーという場所に通わされていて、母曰く、そのときも同じこと…
ときどき、めちゃくちゃにカロリーの高いものや、ジャンクなものが食べたくなる日がある。 かと思うと、あと1週間は水と大豆だけで過ごしていきたいと思う日もある。 急にどこから湧いてきたのか思うほどの忙しさに包まれて、楽しい楽しいと毎日夢中で這い…
ほとんど塞ぎかけた二番目のピアスホールを触り、ふいにさみしさを感じた。鳥の声でかえって明瞭とさせられるしずかさが、身体の芯にひびいてくるような朝であった。 二番目のピアスホールは、今から五年ほどまえ、高校二年生の終わり頃にあけたものであって…
アマゾン展に行ってきた。羽の生えた生き物とか、化石になってしまった生き物とか、地面を這いずりまわる生き物がたくさんいた。 なかでも個人的に興味深かったのは蝶々。モルフォ蝶や、透明な翅をもつものが標本にされていた。透明な翅は、人間が触れたらた…
昨日は珍しく、スターバックスの新作のフラペチーノを飲むなどした。 朝起きたときは別に飲みたいともなんとも思っていなかったのだけど、病み上がり以来初めてショートパンツをはいて脚を出して、新しいHARUTAの靴をおろしたもんだから、朝から気分ごとまる…
身体感覚。自分にしか分からないもの。 頭でモノを考えすぎるクセがあるから、頭で考えるのと同じくらい身体で生活を受信している。「から」というのは、人間は何か極端に一つの方向につよい力がはたらいているとき、それと同じ強さで逆方向に力がはたらいて…
頭で考えていることと、身体を使って生きてみて実際に感じることというのはこんなにも違うものか、とよく思う。何かを頭で考えていること、というのは、たいていの場合、何かしらを自分に納得させたいときである気がする。仮説を立ててみたり、誰かに影響さ…
最近、我が家は粘度の高いぬるま湯のような状態である。母と妹がずっと喧嘩をしているのだ。四六時中喧嘩をしているわけではないが、一日に一回は必ず険悪な雰囲気になる。そしてお通夜のようなリビングが完成する。それまでみんなで楽しく笑いながらご飯を…
夢十夜第一夜をオマージュした短いお話を書きました。***「もうそろそろ、ぼくは死ぬよ」半分目を閉じかけて、おだやかな声で有紀はそう言った。静かだけれどしっかりとした声で、死ぬんだ、と酸素マスク越しにもう一度つぶやいた。「どうして?」「分か…
「どうしてパパはママと結婚したの?」「パパはママの笑顔に騙されたんだってさ」 わたしの父は、仙人だ。今年51歳になる、少しハンサムな仙人である。 まず、欲がない。21年間育てられてきたなかで、父が、何かをもっと欲しいとか、何かをしたいとか、そう…