きみのお祭り

死ぬまで盛り上がっていけ

地球の反対側にいるきみ、あるいは春が来ないと嘆くあなたへ

いま、仲のいい友だちが4人、日本じゃない場所にいる。ある2人は研究者、ある人は起業家、ある人は派遣隊として、それぞれみんな別の場所で別のことをがんばっている。

遠くにいる友人に、ここに吹く風の音や、季節の訪れを伝えたくて、手紙を書きました。該当する4人へ、それぞれ自分のことだと思って読んでね。

それから、自分の人生に希望などない、いつ報われるかわからない、もう生きているのがめんどうだと思っている人がいたら、そういう人も自分宛の手紙だと思って読んでね。

 

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異国、どうですか? ひとりで異国の地にいるのは、さみしくないですか。ときどききみのことを、生活の中で思い出すよ。東京には春がきたので、手紙を書きます。

 

そっちの季節や天気はどうかな。東京は、ほんとうに春がきた。いつもの年よりも梅や早咲きの桜の開花がかなり早くて、ちょっとびっくり。おまけにここ1週間くらいはなかなか天気のコンディションが良くなくて、せっかく花が咲いているのになかなか写真を撮りに行けなくてむずむずしてた。

 

今日も昼過ぎまで曇っていたんだけど、運良く16時くらいから青空になったから、家の近くを自転車でぐるぐる回って撮ってきたよ。撮りながら、地球の反対側にいるきみの土地の風はどんな匂いがするのか、空はどんな色をしているのか、花はどんな香りなのか、気になった。どんな匂いがする?どんな色に染まる?どんな香りがする?

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花を見ていて思ったんだけど、実は春って、いま花というかたちで目に見えるようになっただけで、ほんとうはずっと前から始まっているんじゃないかな。最近暮らし始めた家の近くには桜並木があるんだけど、2月の頭くらいからなんとなく並木の空気全体が桃色で、あー春だなあって思った。でも、花が咲かないとなかなか春だって感じられない。花が咲くから春がくるんじゃなくて、春が来るから花が咲くのに、どっちがどっちだか、ときどきわからなくなっちゃうね。

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西の太陽がきらきらしてたよ〜。

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いのち大爆発って感じ

わたし仕事しててときどき、というか、けっこう焦ることがある。こんな、誰のお腹も満たさない、誰の命を救うわけでもない仕事に命を削っていること。虚業だ、と思うことすらあるよ。どこに向かって進んでいるのかわからなくなることもあって、というかそもそも進みたい方向なんて全然見つからなくて。でも、なにより生活していかなきゃだし、一緒に働いてくれる仲間がいるから、ときどきひっくり返りながらなんとかかんとか息継ぎして毎日仕事してる。 

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白梅は気高いねえ

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前にきみも、同じようなことを話してくれたね。自分のしていることが一体どれほどの意味を持つのか、毎日にどれほどの価値があるのか、そんな事を考えて不安になったり憂鬱になったり、とかね。人生をかけて解き明かしたい何かがあることとか、寝食を忘れるほどに夢中になる何かがあることは、傍目から見ていると「うらやましい」と思ったりもするけれど、きっと実際そんな単純じゃないよね。好きっちゃ好きですが……って感じかもね。いくら夢中になっているとは言え、これから自分どうなっちゃうんだろうとか、ほんとうにこのさき生きていけるのかなとか、身を立てていけるかなとか、不安になることいっぱいあるよね。と言っても、どこかで「まあ、死なないし」って、思ってるだろうね。そのとおりだよ。

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うまくいっているかどうかなんて、ぜんぜんわかんないよねえ。めちゃくちゃ頑張ったはずなのに、誰にも見向きされなかったり、あるいは「これをやっても無駄ということがわかった」「このやりかたはあまりよくないっぽい」くらいしかわからなかったり。このさきどれくらい生きられるかわからないけれど、仮に100歳くらいまで生きられるのだとしたら、あと何十年もこれを繰り返してこんな思いにさいなまれるのかと思うと、ときどきぜんぶ放り投げたくなること、ない? わたしはしょっちゅうある。そういうときはまあ、あつあつコーンスープ飲んだり、でかいパフェ食べたりして忘れようとするんだけど。サイダーの泡みたいに消えたいなあと思うこともある。いまこの瞬間が残りの人生の中で一番若くて、これまでの人生の中で一番歳をとっているんだって考えると、なんだかおそろしいような気分にもなる。情緒が不安定なのかな、そうかもな。パフェ食べちゃお。

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春はきっと、始まってるよね。わたしたちが知らないだけで、わたしたちの春はきっと始まっているよ。花が咲いていないから見えていないだけで、ほんとうは時間の中に、溢れんばかりのひかりと、やさしい香りと、あざやかな色を、これでもかというほどたくわえている。固くて茶色い冬芽も、緑の葉っぱも、やわらかな若い枝も、全部が樹そのもので、わたしたちは生きて樹であり続ける限り、いつだって体の中に春が隠れている。始まっていないわけない。生まれた瞬間からきっと始まっているよ。

 

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暗さのなかにひかる花もいいよね

だから、あんまり気に病みすぎず時間を過ごしていこうね。ときどきものすごく苦しくなったり、かなしくなったりしたら、電話ちょうだい。もちろん、うれしいこととか、楽しいことととか、そういうのがあってハッピーなときも電話ちょうだい。帰国したらいつだって会いにおいでよ。また遊びに行こう。公園とか、山の方とか。旅行もちょっと行きたいね。楽しいこと、なんでもしよう。

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地球の反対側にいるきみへ。いつもありがとう。東京は春がきたよ。きみのなかに隠れている春に祝福を。さわやかな目覚めが、明日も訪れますように。