汽水域

海水と淡水のあいだ

日記の書き方を忘れた

日記にそもそも書き方などない。天気を記録するだけでもじゅうぶん日記だし、心の内を切々とさらけ出すも日記である。「書き方がわからない」と思ってしまうほど、ことばがわたしから逃げてしまっている。

 非常事態。ここ1ヶ月はずっと神経が張り詰めていて、特に直近数日はひどい。心身のメンテナンスにも気が回らず、2ヵ月ぶりに顔を出した鍼灸院では「これは一番悪かった頃の崩壊の二歩手前だね」と笑顔で言われたくさん鍼を打たれた。

 悪いばかりではない。良くなったり悪くなったりが激しいから余計につらい。朝は胸いっぱいに冷たい朝の空気を吸って気分が良かったのに、夜に近い夕方になったら畳の上から起き上がれない。心に余裕を持つように持つように心がけても、体のほうに振り回される。背骨を中心に左右に二本のナイフが深く刺さっているような痛みがもう一週間ほどとれない。

 この日記、フードコートで書いている。通路を挟んで真横に広がるのあ誰一人遊ぶ人のいないゲームセンター。メリーゴーランドのごとく無言で回転明滅するスイートランド。誰にも落とされないカビゴンのぬいぐるみ。赤、緑、白、青、赤、緑、白、青に光るメダルゲーム。およそ100組のチープな椅子と机。客、わたしひとり。

あきらめたい。時間をあきらめてしまいたい。どうしようもなく心が重い。やるべきことを120%の力でやってもやっても塩水を飲んでいるみたいに喉が渇き続ける。とっくにバランスを失っているのにとまることのできない独楽。

 ロックンローラーだけが自由に歌ってくれる。大嫌いだとか死んでしまえとか、そんな激しい言葉で、たくさんの音で、大きな黒い塊を爆破してくれる。

 日記の、書き方がわからない。言葉がわたしから逃げてしまっている。土砂のように文字しか出てこない。