きみのお祭り

死ぬまで盛り上がっていけ

『ラストナイト・イン・ソーホー』の話

※ 具体的なシーンや物語の核心部に近づく内容に触れています。ストーリーには触れていません。観る前に多少ネタバレしてもいいよという人、観たよという人向けです。

 

『ラストナイト・イン・ソーホー』観てきました。前情報は「ホラーらしい」「ベイビードライバーの監督が作った」「60年代イギリスがテーマ」くらい。

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エドガー・ライト監督のことは詳しく知らないけれど、「ベイビー・ドライバーと同じ監督」と言われるととても納得感がある。ベイビー・ドライバーもソーホーも、そのリズミカルさがとても好きだ。たとえば歩くとか、ドアを開けるとか、コーヒーを受け取るとか、マネキンを抱えるとか、シーツを広げるとか、そういう日常的な動作がリズムに満ちていて(しかし決してミュージカル調というわけではない)、目も耳も身体も心地いい。映画冒頭からこのライト・リズムが繰り出され、開始3分でわくわくした。

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中でもこのダンスホールのシーンはほんとうにかっこいい。ダンスや音楽に通じている映画監督は数多くいると思うけれど、彼の目と撮影技術が掛け合わさると、ただのダンスがこんなにドキドキするものになるなんて! これは大画面で体験して大正解だった。

 

もうひとつ、この映画のいいなと感じた点は、女性の人権問題を提起しつつ、「べったり」な作りじゃないところ。

ここ3年くらい、女性の権利や生き方にフォーカスした映画が本当に増えた。あと性的マイノリティ。あえて選んで観ているわけではないのに、去年だけでも10本近く観た気がする。好みから明らかに外れる映画を除いていくと、だいたいこれらのテーマを扱ったものか、あるいはどこかしらで紐づいていたものが残る。日本以外の国の映画市場の事情は詳しくわからないけれど、少なくとも海外発で日本に配給される映画に関しては、この2つのテーマにフォーカスした作品が確実に増えていると思う。これ、今度どこかからデータ探してきて整理したいな……。

 

で、女性の権利とか生き方とか性的マイノリティとかをテーマに扱った映画って、けっこう「べったり」なものが多くて、観たあとに食傷することが多かった。「抑圧!不条理!我慢と受難!」「少数派や虐げられてきた側はこんなに苦しい思いをしてきたんですよ~!」「でもそんな逆境でも負けない強さ!立ち上がるファイト魂!」「理解のある友人やパートナ~~~!」みたいな。テーマと作品、というよりも、監督の「知ってほしい」「わかってほしい」という思いと作品が近づきすぎた映画は、端々から「俺はこれを描きたかったんや~~!!!(ドーン!)」がにじみ、その近さが結果として表現物の質を下げてしまっている、と感じたことがけっこうあった。

 

ソーホーも、扱っているテーマはまさに女性の人権問題で、主人公の行動を含め、演出全体でその問題をかなり色濃く提起している。華やかなステージに立つために、若い女性が権力者である男たちに体を差し出さなければならない。拒んでも逃れられない。その構造が物語を核心部へと導いていく。

けれどもこの映画は、監督の思いと作品の距離感が適切だった。提起される場が「夢」というベール一枚で隔てられているからなのか、押しつけがましさを感じなかった。「ただ(残酷な)事実を描いているだけです」という顔をしながらあちこちで共感を求めてくる作品が多い中、ソーホーは事実を第三者視点で観察している人が作ったような、そんな作品だと感じた。どうしてそう感じられたのか?という点は、まだ深掘りしきれていないのだけど。

これは今年映画を見る中でゆっくり考えていきたいことのひとつだな。作品に対して「共感を求められた」と感じさせる作り/感じさせない工夫とは、どんなものなんだろう。

 

総じておもしろかったです。ストーリーも含め。特にサンディは最初から最後まで本当に魅力的なキャラクターで、メロメロにされました。これから観に行く人はぜひ大画面でメロメロにされてください。