きみのお祭り

死ぬまで盛り上がっていけ

時間を取り戻す話

祖母の認知症がかなり進みつつある。同時に、体力もずいぶん衰えている。病気をしているわけではないけれど、毎日ご飯を食べるとき以外はほとんどずっと眠っていて、少し起き出してもすぐにコタツでうとうとしてしまうらしい。5分前に言ったことも忘れてしまうし、わたしの誕生日はもちろん、実の娘の誕生日も忘れ、そもそも誕生日という概念すらよくわからなくなっている。四六時中くっついてまわる猫のことは、まだかろうじて覚えている。

おばあちゃんがあらゆることを忘れ眠り続けていることが悲しいかと言われれば、実は全然悲しくない。誕生日を忘れても、わたしが誰かを忘れてしまってもいいから、祖母には、祖母のおだやかな時間を取り戻してほしいと思う。

何年か前に、彼女がようやくゆっくり眠れるようになった話をこのブログに書いた。あのときも思ったけれど、おばあちゃんには、おばあちゃんの時間を取り戻してほしい。お見合い結婚をして、隣の村から嫁いできて、それはそれは大変な家庭内の戦争に巻き込まれ続け、勤めに出て、二人の子どもを育て上げ、40歳を超えてから免許を取り、住職の奥さんをやりとげ、休むことなく働き続けた彼女には、昔は味わうことのできなかった自分の時間をとにかくたくさん味わってほしい。旅行に行くとか、お芝居に行くとか、そんなことよりも昏々と眠り続けることがおばあちゃんにとって手に入れられなかった時間ならば、それを心ゆくまで満喫してほしい。わたしのことも猫のこともぜんぶ忘れてしまっても、わたしも猫も大丈夫だから。あなたの知らなくなった世界の外側で、ずっとあなたを愛している。

冬がさらに厳しくなる。体には気をつけて、どうか穏やかな深い眠りを。