きみのお祭り

死ぬまで盛り上がっていけ

夜風

顔や腕のあいだをすり抜けていく夜風があまりに気持ちよくて、予定していたところの3倍遠いコンビニまで自転車を走らせた。150円しか持っていないけど。レモンフレーバーの炭酸水を飲みたかっただけだけど。

 

夜は、それだけでなんとなく特別だ。車も走っていない。人もほとんど歩いていない。コンビニの明かりが、遠い旅路の果てにたどり着いた立派なお城のカンテラのように見えた。夜は、それだけで魔法だ。等間隔の街頭に照らされたまっすぐ深く続いている道を、わたしは一匹の軽やかな魚になって、同じ速度で泳いでいた。風の音が低く響いて、肌が空気に溶けていく。

 

暗すぎず明るすぎない道端でとまり、コンビニで買った炭酸水を口にした時、ふいに、自分が22歳になれて本当によかった、と思った。

なにか分かることが増えたわけでもなく、できるようになったことが増えたわけでもなく、けれど、22歳になれてよかった、こんなに気持ちいい夜があるということが分かってよかった、と思った。

強い炭酸が口いっぱいに広がって、ごくんとそれを飲み干したとき、ふいに、どうしてまだまだうまくいかないことがいっぱいあるんだろう、と悔しくなった。22歳にもなって、うまくできないこと、よく分からないこと、そんなことが数えきれないほどあることが突然思い出され、それら全部がいっぺんに自分を糾弾しているような気がした。炭酸の後味がぴりぴりする。

でも、夜風がこんなに気持ちいいし、今は別に考えなくてもいいか、という気になった。

 

ペットボトルのキャップを閉めて、わたしはまたゆっくりペダルを漕ぎ始めた。