汽水域

海水と淡水のあいだ

身体のつくりと踊りの話

趣味でサンバを踊っている。これがけっこう楽しい。最初は「月に1回レッスンに行ければ」くらいに思っていたが、気づけば毎日なんとなくステップを踏んだりリズムを口ずさんだりするようになっていて、すっかりサンバを身体に飼うこととなった。

サンバというとお色気~なイメージがあるが、実のところかなり原始的なダンスで、格闘技の要素も混ざっている。もちろん上級者が踊るとめまいがするほどセクシーだが、それはサンバがセクシャルな媚態を振りまくダンスだからではなく、重力や遠心力という物理法則を肉体に投射するダンスだからだと思う。

サンバは楽しい。しかし悩みがあった。本場のおねえさまがたのように尻を振りたくとも、まったく振れないのだ。

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上級者のお尻は本当にすごい。プリプリを通り越してブリブリである。クレヨンしんちゃんに「ぶりぶりざえもん」というキャラクターがいるが、サンバの尻は文字通り「ブリブリ」なのだ。両尻(?)にバスケットボール大の水風船でも入っているのではないかと思われるほどの揺れっぷりである。

で、この「ブリブリ」がどうしても再現できない。動画を撮って何度フォームを確認し修正しても、腰は回っているのに尻が振れない。どうやったらああなれるのかわからず困り果てていた。

何ヶ月も練習を重ねたがダメで、とうとう講師のフランシスに相談した。尻が振れない、ブリブリになれない、どうすればできるようになるか、と問うたところ、思いがけない答えが返ってきた。

「ああ、きみのお尻ではああはなれないよ」

「どうして? フォームや体の使い方の問題? それとも力の抜き方?」

「いや、きみのお尻はああいうサンバを踊るにはあまりにも平らなんだ」

ハッとした。そう、わたしはもともと登山が趣味であるため、なるべく脂肪をつけないよう、山を登るのに最適な筋肉をつけられるよう、普段から下半身のトレーニングを欠かさない。それか!それなのか!と妙に納得した。

「ということは、わたしはサンバに向いていない?」

「全然そんなことないよ!きみのサンバは美しい。身長や手足の長さをうまく生かしているし、男でも女でもないような、ふしぎなサンバを踊る。すごく素敵だよ。ブラジル人はみんな肉付きがいいから、ああいうサンバになる。でもサンバに正解はない。きみはきみのサンバを踊ればいいんだ」

フランシスにそう言われて、すとんと腑に落ちる感覚と、込み上げるうれしさがあった。そう、ほんとうにそうなのだ。わたしはわたしの身体のままで、わたしのサンバを踊ればいい。ブリブリのサンバが踊れなくとも、わたしはサンバが大好きだ。

いつかリオで踊ってみたい。パンデイロとホイッスルのリズムに血を沸かせ、バスケットボールみたいな尻を持つサンバダンサーたちとぶつかりあって、ブラジルの大地で踊り狂いたい。