きみのお祭り

死ぬまで盛り上がっていけ

3年ぶりプロメアの感想と雑な考察

会社の人に誘ってもらい、3年ぶりにプロメア。やっぱりいいよプロメア。音楽、モーションやグラフィックデザイン、キャラデザのかっこよさやうつくしさが最高であることは言うまでもなく、ストーリー含め中身にも見どころが多くて、掘っても掘っても追いつかない。

いろいろ考えるところはあれど、とりあえず覚えているうちにいくつか書き残しておく。めちゃくちゃネタバレしまくっていますのでその点はご注意を。

 

promare-movie.com

  • 冒頭で、バーニッシュは後天的な変異として描かれる。抑圧されたり、理不尽な暴力を振るわれたりした「ふつうの人」が、ある日突然バーニッシュになる。このことは、人は皆もともとバーニッシュの素質を持っていて、受けた刺激が溜まってバーニッシュが発現する閾値に達するか否かが非・バーニッシュとバーニッシュを分けている、と捉えられる。バーニッシュになる閾値は人それぞれで、イメージとしては花粉症に近いのかも。
  • バーニッシュになるきっかけが広義の「暴力(抑圧、差別、精神的DV etc)」である点も注目。暴力が非・バーニッシュとバーニッシュを生み、その二者が生まれることで溝が生まれ、その溝がさらなる差別や抑圧を生み、さらに対立が一層深まり……という構造。暴力は破滅しか生まないのですね。
  • リオの怒りは劇中一貫して、バーニッシュもとい人間の尊厳を傷つける行為に対して向けられている。だからリオは強いし、周りからも信頼を集めている。怒りの背景がリオ個人の感情ではなく、彼が「大きなもの」を見つめているがゆえだから。
    リオが唯一、感情による怒りに狂わされるシーンがある。それがクレイに対し直接的な憎しみを向ける場面。あのときのリオは、クレイという一個人を悪と捉え、彼の名前を何度も叫びながら狂ったように街を破壊する。それまでは「人を殺さないこと」をバーニッシュの誇りとして常に第一に掲げていたリオが、クレイを標的にして彼を滅さんとしているときは、無関係な人々の巻き添えも厭わない勢いで街を燃やし尽くす。そのときのリオの姿は真っ黒に染まり、目も吊り上がって、それまでのうつくしいリオの姿とはかけ離れている。
    これ、かなり象徴的なシーンだった。倫理にもとる悪に対して抱く怒りには、普遍性がある。普遍的な怒りは、善に向けた破壊であり、ゆえに再生の可能性を含んでいる。けれども、個に対する怒りは、怒りを抱く側の個の感情の域を出ない。個の怒りは、怒りを抱える側が感情にただ振り回されているがゆえに発散される感情であり、怒りを発するその人(びと)をも滅ぼしてしまう。ということが、このシーンを通してとてもわかりやすく描かれていた。
    人間全体が長く抱え続けている問題(たとえば差別とか)について、誰か一個人を悪の根源とみなして攻撃しようとする態度は、破滅を助長するだけだし誰も幸せにしない、ということ。
  • で、このときのガロがすごくいいんだ……。怒り狂って町を破壊しながらクレイを探すリオが出す炎の龍は、涙を流している。崩れた瓦礫の隙間から龍が泣いているのを見たガロは、ぶち壊された街に唖然としながらも「泣いているのか……?」とリオの心中を推し量る。
    ここ本当によかったんよ……。ふつう、怒り狂って街を燃やして破壊している奴がいて、そいつが涙を流していたとしても、自分の魂と使命が「火消し」であれば、「許せん!」になるはず。なんだけど、ガロは龍の涙を見て、リオが怒り狂っていながら実は苦しんでいること、自分と同じ境遇にあるバーニッシュがこれまでたくさん傷つけられてきたことに対する深い悲しみを抱えていることに気がつく。だからガロはリオを止めにいったとき、死ぬほど熱いはずなのに、「お前の逆切れ炎なんか、全然熱くねえ!」と、感情に振り回され暴走しているリオに正面からぶつかっていき、「人を殺さないのがバーニッシュの誇りなんじゃないのか!」と、リオがリオであるのに欠かせない「誇り」を彼に取り戻すよう促す。
    ふつう、感情に振り回されてめちゃくちゃになってる奴なんてめんどくさくて関わりたくないし、悪いことをしている奴に「悪いことはしちゃダメだ」と言うことはできても、「誇りを取り戻せ」と伝えることは難しい。これを天然でやれるのがガロのすごいところ。ガロ自身が感情の人間で、誇りを背負って生きているからこそできたことなのではと思う。そして普段はクールで理知的で、常に「大きなもの」を見つめているリオの、そのような一面を受け止めることができたのも、ガロだからこそだと思う。ガロは一本気のバカだけど、人の感情の機微を想像できる人間で、それは彼が、幼い頃に両親を亡くしたこととも関係しているのかもしれない。
    あと、一緒に観に行った人によると、このとき龍を泣かせたのはアニメーターさんだったそうな。もともと作画の指示に涙は入っていなかったのだけど、この画を描いたアニメーターさんが水色の涙を付け足したところ、「いいんじゃない?」となって、そのまま通ったらしい(ソースは聞き忘れた)。ありがとうアニメーターさん。ガロは人の心を思いやれる人間だけど、怒り狂っているリオがもし涙を流していなかったら、たぶんリオの苦しみに気が付けなかったと思う。ガロはバカだから……。

あとなんとなく思ったことのメモ

  • プロメアの根本的な思想は大乗仏教に近いものを感じる。平行宇宙の話とか、バーニッシュはプロメアの通り道であり表現のひとつであるっていう設定とか。「全は一、一は全」的な思想が後半でかなり色濃く描かれていて、こんなに思想が明示される映画だったっけか~と思った(歓迎ですが)。
  • デウス・X・マキナは鉄人28号のオマージュっぽいんだけど、リオ・デ・ガロンとかクレイザーXとか、ほかのメカやパワードスーツたちもそれぞれ何か元ネタがありそう。ロボット・特撮系を知っていて、各メカのオマージュ元がわかると「だからデウス・X・マキナじゃなくてリオ・デ・ガロン(最後はガロ・デ・リオン)じゃないとクレイザーXを倒せなかったのか……!」みたいな考察もできる気がするんだけど、全然詳しくないので悔しい。
  • 前日譚とも併せて見る限り、シーマはガロが初仕事で救った人で、本編ではそのシーマが目の前で死んでいくことに、ガロは気づいておらず、バーニッシュの一人が亡くなった、ということしかわかっていない。これ、自分が差別問題に対して持っている意識の浅さを痛感した。プロメアの世界で、非・バーニッシュがバーニッシュをひとくくりにしているように、わたしたちの世界でも、たとえば黒人差別において、わたしたちは、被差別者たちを「黒人」とひとくくりにしている。彼らの一人ひとりのルーツや名前を知ろうとはしないし、知ったとしてもすぐには彼らを判別できない。差別側はそのような意識は持たず(持てず)、ただ被差別グループをひとまとめにして、しかもそのことに気づかず「そういう差別って良くないものだよね」という認識を持っている、持った気になっているという。怖いな、と思った、し、反省した。じゃあ何から始めるの?って話なんだけど。
  • 一緒に行った人に言われて気づいたのだが、バーニッシュとともに隠れ住んでいた人たちのなかには、非・バーニッシュもいたはずなんだよね。ピザ屋の若者が店主に匿われていたように。家族がある日突然バーニッシュになって、それを周りに知られることや、差別、弾圧を恐れて、ともに逃げた非・バーニッシュもたぶんたくさんいる。だから、バーニッシュの棲み処を一掃する行為は、知らずのうちに非・バーニッシュをも殺している(バーニッシュは氷結弾に耐えられるが、非・バーニッシュは耐えられない)。「バーニッシュを匿う奴はバーニッシュと同じく収容所送り」とヴァルカンも言っていたし、歴史上そのような排除の仕方は当たり前のように今も繰り返されてきているけど、その結末は?というと、もうみんなわかりきっているよね。
  • と、差別のことをいろいろ考えつつ、ふと思うのが、リオやクレイがあんなにうつくしい見た目じゃなくて、それこそピザ屋の若者のような見た目だとしたら、プロメアってここまで盛り上がっただろうか? わたしはリオ・フォーティアのことがとても好きだが、それは彼の見た目のうつくしさと、バーニッシュとしての強さと、彼の「大きなものを見つめる」姿勢に惹かれるから。もしリオがあのビジュアルかつバーニッシュとしての誇りを背負っていなかったら、好きにならなかった気がする。彼を好きである3つの要素のうち2つは、彼の属性によるものであって、それを素敵だと感じることは、構造的には差別と一緒なのか……?と思ったり。
  • で、この映画でクレイやリオが一見「差別されない側」の見た目で描かれたのってなんでなんだろう、って、昨日からいまもなんとなくずっと考えている。
  • ここまで書きながら気づいたんだけど、リオってもしかして先天的なバーニッシュだったんだろうか。後天的なバーニッシュと違って、幼い頃からバーニッシュとしてのふるまい方や力の使い方を身に着けているから、あんなに強い。リオはその服装や知的能力の高さ、美的感覚、そして強いノブレス・オブリージュの意識から、間違いなく高貴な出自だと思うんだけど、彼のバックグラウンドは劇中で一切明かされないし、想像すら難しい。前日譚で、どうしてあんな荒野の真ん中に突然イカしたバーニッシュフレアのメカで現れたのかについて、同行人といろいろ考察していたが、もしかしたらリオは、バーニッシュ純度が高くかつ高貴な一族の末裔で、その末裔として、非・バーニッシュの世界とは遠く離れた場所に城を築き、そのなかで育てられたのかもしれないな、と今これ書いてて思いました。これはまだ雑すぎる思いつきなので、あと何回か観て裏付けを集めたい。

最後は秋葉原のプロメアコラボHUBに行っておしまい。コラボカフェ系は味がイマイチなイメージがあって行ったことなかったんだけど、今回はHUBで(HUBが好き)お酒がたくさんあったのもあり(お酒が好き)、行ってよかった。どれもおいしかったです。

ドリンク頼むとコースターもらえる。かわいい。

劇中のピザとクレイのドリンク。クレイはピザと合わせるには少し重かった(同行人談)

コヤマシゲト氏のリオ落書き入りポスター。かわいい。